第5章 恋人 - 定義と認識 2*
「透子、聞いてるのか」
「えっ? ………いえ」
こちらを伺ってくる静の視線に「すみません」と謝った。
半ば呆れたように見てくる静に萎縮した。
「………キミは、すぐに謝るんだな」
「聞いていなかったのは確かですから…少し、考えごとをしていて」
「いつもなら、静さんが謝らなさ過ぎなんです。 などと、言われそうなものだが」
なにか思い出したのか静が、ふ、と窓の外に目を移す。
「キミはよく謝るし、礼を言う。 日本人の中でも特に。 そういうのも、キミの親の教育かね」
「そうですね………施設でもそうでしたし、母からも。 ただ、母の場合はそれだけではなく、逆に礼や謝罪もきちんと受けるべきだと」
「ほう? そんな要求は初めて聞いた。 そんなものについては、相手の自由では?」
静の指摘に、彼の後ろに目線を投げながら話す。
「確かに一般的じゃないかも知れませんけど。 元は一期一会の考えです。 その人とは明日に会えるか、またいつ会えるか分からない。 相手に借りを作ったと思わせたままは良くない、と。 相手に良いと思うことをしたら、都度きちんと見返りを貰いなさい。 そう言っていました」
「なるほど。 一期一会とはたしか茶道の精神だな。 英語圏で言う、Thank you for はただのビジネス上のマナーであって、決して礼などではない。 だから最初に俺の態度が原因で、キミに嫌われたという訳か」
そう言われ、少し顔を赤くした。