第4章 恋人 - 定義と認識 1*
「フ…耳まで赤いぞ。 俺に申し込んできた先程の勢いはどうした」
「っ」
火照った耳を唇に挟まれ身を固くする。
自分の目を覗き込むように頬につけられた静の唇が動いていた。
「それでも気にする事はない。 キミがその気ならこちらも全力でつけ込める」
「どういう意味…んっ」
振り向きざまの透子に顔を傾けた静が口付ける。
すべらかに唇の表面を移動し、逆に心を落ち着かせるかと思うほどの、礼儀正しく丁寧なキスだった。
「ん、ん………」
いつの間にか自然に目を閉じていた。
その感触の心地好さに時おり力が抜けそうになり、そんな時、静の腕が背中を支えた。
まるで外界と遮断されたみたいだと感じた。
軽い強弱に柔らかく包まれる。
注意深くなぞる薄い皮膚は音のない会話のように。
そして無言の囁きは、段々と饒舌になっていく。
「っふ…」
背中と腰を抱かれて足先が空を切る。
それに対して反応しようと透子が目を開け、同時にドサッと寝台に体が弾んだ。
「!? し、静さ」
上体を起こし、素早くベッドボードの端に後ずさって体を逃がそうとする。
「………これから毎晩眠るベッドの寝心地を試してみたいだろう?」
ほんのりと頬を紅潮させ、自らの唇を舌で湿らせる静がにじり寄ってくる。