第4章 恋人 - 定義と認識 1*
「静様。 お帰りなさいませ」
初老の男性が入口のドアの前で恭しく頭をさげる。
遅れて地面に足を着け、目にした人は────青木だった。
『静様、透子様。 おはようございます』そう言って、今さっき国立で会ったはずだ。
「………!? えっ、さっき。 ぶ…分、分れ」
目をまん丸にしてアワアワ慌てる透子に、静がやんわりと諭してくる。
「透子。 増えてない。 青木はアメーバじゃないぞ」
「透子様、お初にお目にかかります。 青木と申します」
同じ姿勢でペコっと腰を折る角度も位置も、まさしく青木に違いない。
「? ぼ……ボ……ッボ!?」
「透子。 青木は痴呆でもない」
侮蔑の言葉を避け、意味不明な単語の羅列を繰り返して焦る透子を落ち着かせようと、彼女の肩を抱いた静に、執事はひそかに眉をあげた。
「わたくしたちは双子の兄弟です。 静様のそれぞれの家に仕えております」
「そ、そそうなんですか。 凄い、そっくり………」
「はあ………あまり似ていないかと存じますが」
「ふむ、そうだな」
糸目、低い身長にささやかな髪の量、黒のピシッとした服装に声や口調。 入れ替わっていても気付けないと思う。
「静さんは分かるんですか?」
「長い付き合いだし………そうだな。 分かりやすく説明すると、涙もろいのが国立で、はにかみやなのが目黒だ」
分かりにくい、分かりにくいよ。
あっ、でも青木さん、今自分のこと言われてはにかんでる?
頬の上を赤らめ「ささ、ご案内いたします」と先立った青木に、透子はほんのりとであるが理解を示した。