第1章 お見合い、のち災難
(ええええっと。 ど、どうしよう)
当然ながら、透子は知らない車の中で身を固くして縮こまっていた。
密室の中で完全アウェイとは思いのほか恐怖心が煽られる。
それでも最初の話の内容からは、どうやら彼は、お見合い相手である八神さんの知り合いらしい。 それなら少なくとも危険は無いと思いたい。
この車はなんというものだろう。 透子はダラダラと心の汗を流しながら周囲を分析しようとした。
映画で見たことがある。
内装が無駄に広い、おそらく外車────いわゆるリムジンとかいうやつ?
足を伸ばせそうな広いシートを覆うカバーは毛皮のごとくな感触。
後部座席に掛けているのは先ほどの男性のみだった。
そして前方は仕切りになっていて見えない。
彼が左隣から声をかけてきた。
「手荒な真似をした。済まない」
彼は斜め前の窓を眺めている。
目を合わせないよう、透子はその人をそっと盗み見た。
なぜだか偉そうにゆったりと腕を組んでいる。
金髪というか、彼の髪はよく見ると薄い茶色に近い。
彫りが深く、ナチュラルにハーフの人かなと想像する。
年の頃は、従姉ともそう変わらない二十代中半だろうか。
思ったよりも早く気持ちが落ち着いたのは、その人物の雰囲気がやたら品が良いせいだった。
冷たそうな印象と取っつきにくさ。
身にまとうオーラのようなものも感じる。
「まあ、寛ぎたまえよ」
あとどうもいいが、喋りが変だ。