第4章 恋人 - 定義と認識 1*
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それから若干無口になった静だったが、しばらくしていつも通りに戻ったようだ。
国立の屋敷に到着し、表に出てきた青木に指示をする。
「今週末も目黒で過ごす。 家のことは頼む」
「かしこまりました。 では、荷を運ばせますので少々お待ちください」
屋敷から運び出してきた大きなダンボールをいくつか積み、それから車が都内へと向かった。
車窓からは緑の多い市街を過ぎ、段々とオフィスビルが立ち並ぶ景色が垣間見えてくる。
「丸の内までは電車で二十分ぐらいかな。 キミも残業や勉強があるだろうし。 送迎が必要なら言ってくれ」
「それには及びません。 そんなに近いんですね。 家の事はどうします?」
「ん、家の雑事のことかね。 平日の掃除や料理は手伝いを雇ってるし、家の一切を任せてる者もいる」
「では週末は私がしますね。 お家賃を受け取っていただけませんでしたから、その代わりといっては、なんですが」
「そんな必要はない。 金で解決出来るなら。 キミの時間の方が重要だ」
家政婦を雇っていた白井の家でもそうだったが────今までなにもかも一人でやってきていた自分としては、そんな生活にはなかなか馴染めなかった。
「いかにもお金持ちの…静さんの場合は欧米の考え方ですね」
「俺の仕事の一時間でどれだけの金が動くと思う? それを増やすことを考えた方が世の中のためだ。 キミも自分のことに時間を使いなさい」
「だけど、家のことが何も出来ないのは人としてどうなんですか」
「何も出来ないとは言ってない。 やらないだけだ。 学生時代はずっと寮にいたしな」
「うう、うーん………」
それでも丸きりお世話になるのは。 率直に拒否反応を顔に出した透子に静がふ、と頬を緩ませる。
「納得しないか。 では余暇としてならいい。 週末はなんなら、一緒に料理や皿洗いでもするかね」
「………はい!……ん」
軽くつつくように口の端に静の唇が触れ、かと思うと、両脇に彼が手をついた。
「え……っ? ちょっとあの、静さ」
「想像したらムラっときた」
ど、どの辺にそんな要素が?