第4章 恋人 - 定義と認識 1*
「なにかおかしいですか?」
「え……い、いや、予想外過ぎて。 なぜまた?」
目線をあちこちに彷徨わせて狼狽える静なんて、初めて見たかもしれない。 自分の方が逆に冷静な気持ちになった。
「この一週間、考えてたんです。 私、嫌いな人に触れられたりはしません。 それに、仮にも一緒に住むのなら中途半端は嫌ですし………お互いに知り合っていく過程を許すのなら、関係性の定義としてそうあるべきだと思いました」
「なるほど………そういえば、キミの北陸の母君はクリスチャンだったな」
静が神妙な表情でゆっくりと頷いた。
彼の話の意図は分かりかねた。
ただ少なくとも、自分の発言が歓迎されているようには見えない。
「私は宗派を継いでませんし、洗礼を受けてるわけでもないですけど………もちろん私の勝手な申し込みなので、お断りしていただいて結構です。 仕事などもまた自分で」
「キミの仕事は西条に預けたから、その辺は心配しなくていい。 では、まあ。 分かった」
「分かった、って一体」
「その件は心得た。 一つだけ言うのなら、キミが今言ったようなことは俺が先に口にするべきだった」
「そんな決まりはないですし、どちらかからでいいと思いますが」
「そうか」ひと言いい、静が車窓に目を移す。
いやに事務的というか、素っ気ない。
甘い言葉はいつも口にするのに。 と、意外な静の反応だと感じた。