第4章 恋人 - 定義と認識 1*
「………あの、静さん」
透子が顔を俯き加減にして切り出すと静が視線を返した。
「私、もらわれっ子なんです」
「知っている」
「いえ…そうではなく。 元々、北陸の………白井の家にも養女として引き取られたんです。 六歳までは施設で」
「知っている」
透子の言葉を再び静が遮った。
「俺の目黒の自宅には仕事の資料が山のようにある。 おいそれと素性の分からない人間を入れるわけにはいかないからな」
静の髪が日中の陽光に透け、黄金に縁取られている。
そんな彼に見蕩れそうになり、はっと我に返った。
もっともな表情を作っている静に、胡散臭げに言う。
「詭弁ですよね。 なんでもかんでも相手を調べるのは、ただの悪趣味だと思いますよ」
それは心外、とでも言いたげにムッとする静だった。
「せめて性癖といってくれ」
「性………」
「半分は冗談だが。 暴くだけならただの自己完結の趣味に過ぎない。 それで解決出来る問題など山ほどあるものだ。 なにかあれば俺を頼りなさい」
………半分は本当なのね。 それでもややのちに透子がふふ、と口元を綻ばせた。
他人の身なりなどでは判断しない。 生い立ちだとかは丸きり問題がない、こんな静をどこかで、自分は分かっていたのかもしれない、と。
「今の私たちの関係ってなんでしょう? お見合いが嘘なら」
静が透子をじっと見詰める。
「キミはそれに対する答えを持っているとでも?」
「え?」
「例えば恋人になって欲しいと俺が言って、キミはYesとは言えないだろう」
「言えます」
「そうだろう。 自分でも不確かなものに対して、他人に意見を委ねるような真似は」
「待ってください。 だから、言えますってば」
「────……??」
頬から手を外した静が琥珀の目をしばたたかせる。