第4章 恋人 - 定義と認識 1*
今日は静の雰囲気がなにか違うと思っていたら。
彼はいつものスーツではなく私服だった。
薄手のセーターと細身のパンツといったシンプルさが、元々の静の素材の良さを更に際立たせている。
「深く考える必要はない。 あの娘も跡継ぎなら馬鹿な真似はすまい。 ところで、今朝のキミの指先は桜貝のように美しい」
手を取り、まるで口を付けるかのように顔を寄せてくる。
そんな静にひっと驚き、思わず手を引っ込めそうになった。
引き気味の反応をした透子を、不思議そうな目で静が見上げた。
「俺のために着飾ってくれたんじゃないのか」
「ここここは、21世紀の日本ですから」
「なにを当たり前のことを」
ふと微笑み、指先に軽くキスをして、どことなく機嫌がよさげな静に赤面する。
いつもの自分らしくなく上品に彩られた爪を眺めた────せっかく咲希と仲良くなれそうな気がした。 そう思った透子の胸がチクリと痛んだ。