第4章 恋人 - 定義と認識 1*
「受け取るものがあるから国立の家に寄ってく。 通り道だから」
「構いませんが………静さん。 沙希さんかなり怒ってましたけど、何をどういう風に説明したんですか」
「見合いの行き違いについて。 俺は長期の海外出張に行ってた。 で、うちの親が、勝手に親戚の者を出していた。 それで帰国してから誤解を解こうと、俺が見合い当日に駆け付けたって話をだな」
よくもペラペラと嘘を。 被害者ぶって額に指をあてて喋る静を、半ば呆れた顔で見た。
透子の考えを察したのか、それでも悪びれずに静が言う。
「白井の家のやり方を真似ただけ。 大方、夫人の方は自分の非を追求されたら、しらばっくれるつもりだったんだろうが………俺が間抜けな人間だと思われたままでも困る」
「静さんに他人のことは言えないでしょう」
マナーだか体面などは自分には分からない世界にしても、傍からするとどんぐりの背比べにしか見えない。
静が組んだ足に肘をつく。
「そう。 最初からキミが正しい。 あんな見合いは馬鹿馬鹿しい虚偽に過ぎない。 向こうからすると八神と縁が有りさえすれば構わんだろう」
それでも。
見合い写真の時点で静本人と知らされていれば、咲希はきっとそれを受けただろう。
本当は無かったはずのお見合い。
本来は静と咲希のためのお見合い。
膝の上でキュッと拳を握る。
「そうかもしれませんけど、少し言い方がキツかったんじゃないですか」
「最初キミと会った時の態度よりはマシだろう? 惚れられたりすると面倒だ」
「自信過剰ですね」
「そうかね」
片頬を手のひらに乗せた静が整った顔を傾けた。
くっ。 そうです、と言えない所がムカつく。