第4章 恋人 - 定義と認識 1*
鏡に並ぶと自分と洗練された咲希の違いがよく分かった。
こないだなんか、リクルートスーツだったし。 自嘲気味に先週を振り返る。
静はこんな自分の、なにを気に入ってくれてるんだろうか。
出会ったばかりだというのに。
「透子ちゃん、最近肌がキレイよね」
それも静のせいだろうか、とぼんやり思った。
『かわいい』と。
『キミを知りたい』と。
彼が発したいくつかの言葉は胸に留まり続けた。
それがなにかの拍子に、透子の心がしっとりと湿りを持つ。
まるで彼に触れられた時のように。
気付かない振りをして忘れてしまうことも出来るのに、そうしたくなかった。
それらを何もなかったことにする、そしたら自分は大事なものを失ってしまう気がした。
最近の透子はこんな風に、静のことを思い出すとぼうっと意識が離れてしまう時が儘あった。
「どしたの? 難しいカオして」
「えっ、ななんでも。 ………咲希さん、ありがとうございます」
「なによ、いきなり」
鏡越しの咲希が不審な表情で見てくる。
家を出るまであと一週間。
もう少し咲希と色々話をしたかったと、そんな風にも思う。
「咲希さんって優しい人なんですね」
いつか義姉さんと呼べる日が来るんだろうか?
寂しい気持ちになり、口に出した透子に彼女が眉を寄せる。
「はあ? どこからそんなおめでたい発想出てくんの」
「はい?」
────ピンポーン…