第4章 恋人 - 定義と認識 1*
「分かった、心配しなくていい。 週末はキミを目黒の家に案内したい。 土地勘をつけるついでに、越してくる前に一度見ておいた方がいいだろうから。 家の手伝いの者にも紹介する」
「それはとても助かります。 よろしくお願いします」
「他人行儀だな。 俺から言い出したことだろう。 その時にまた色々話そう」
静は一人暮らしではないらしい。
正直、ホッとした。
「平日は新しい職場の準備だな。 西条に借りを作ったと思わせてくれるなよ」
上からな物言いだが、遠回しに応援されているような気がして元気よく「ハイ!」と答える。
「フ………また連絡する。 ま、もし俺に会いたくなったら」
「あ、大丈夫です。 静さんもお忙しいでしょうし。 では遅くにすみませんでした。 お休」
「………」
通話が切れてしまった。
やはり静は忙しいのだろう、と思いつつも失礼な人だ。 今さら始まったことじゃないけど。
むう、と不満げにスマホを眺める。
そのあと窓の外に目を移した。
以前のように感じていた閉塞感がない。
今晩は煌々と輝く丸い月は、自分の明るい前途を表しているみたいにも思える。
出窓に寄り、サッシ中央の取っ手を外しスライドを上にあげる。
吹く11月の夜風は冷たく、だがすっきりと澄み肌を洗うように撫でていった。
ノートPCを広げ、早速、西条に送る資料の準備に取り掛かった。