第1章 お見合い、のち災難
改めて目の前の華奢なティーカップを眺め、透子は心の中でため息をつく。
それは結局……こういうこと。
つまり自分は三つ上の従姉妹の身代わりに過ぎなかった。
目の前の男性は義父の自社の関連企業の息子らしい────義母は目の前のお見合い相手と、なんとしてでも親族の関係を持ちたい。
今まで見聞きした話から、それぐらいは透子にも理解できたものの。
今どき政略結婚なんて時代遅れな話だとも思う。
透子自身は中流家庭で育ち、両親亡き後は父母の貯金や保険金で細々と暮らしてきた。
今いるこの場所さえも、どこか他人事みたいな心地なのが正直な気持ちだった。
「では私は少し外すわ。 若い人だけの方がいいわよね。 透子さん、帰りは連絡ちょうだいね。 お迎えに来るから」
バッグを手に持った義母が席を立った。
テーブルをはさんで取り残された透子と見合い相手はしばらく無言でいた。
無理に表情を作りすぎたせいで顔の筋肉が痛い。
ふと、透子はほんの少しだけ男性が目を合わせた。
すると透子と同じくぎこちなくではあるけど、彼がはじめて笑いかけてくれた。
ああ、この人と私は似ているのかもしれない────不幸そうには見えない。
けれども、今を『やり過ごす』ことに一番時間を割いている。
なんとなく、透子はそんな風に思った。