第1章 お見合い、のち災難
『あたしは絶対イヤなんだからね! あんなブ男なんか!!』
『まあまあ…沙紀ちゃん。 だから透子さんを北陸の田舎から呼び出して養女にしたんだから』
義母の家で従姉とのこんな会話を耳に挟んだのは、つい二週間前のことだった。
両親を事故で亡くしてから、透子は叔母をはじめとした親戚たちはほぼ疎遠だった。
それが二ヶ月前、突然、当時の叔母が透子に養子縁組を申し込んできた。
『今後就職にしろ祝いごとにしろ、都会の方がいいでしょう? 親族が居ないのは不便でしょうし。姉さんが亡くなったばかりの時は……沙紀も難しい年ごろだったけど、今まで透子さんに何もしてあげられなかったのが申し訳なくて』
そんな風に声をかけてもらえた肉親なんて居なかった。
母の妹である叔母は母と容姿が似ていた。
熟考の末、透子は上京した。
14歳で他界した淡い母親の面影を追うように。
企業の社長宅なだけあり、都内でも立派な義母の家だ。
……しかし透子を迎えた一家の態度は変わらず冷たいものだった。
養子縁組をし、叔母の一人娘の咲希は透子の義姉となるのだろうが、やはり従姉としか思えない。