第18章 死がふたりを分かつとも
「────そこで美味い茶を淹れてくれてる青木だ」
顔を手のひらで覆った静が深くため息を吐いた。
「えっ!? は………は!」
小柄で影の薄い、そして先程から客のコートを受け取り空調などを調整していた人物────どう見てもただの召使い、そんな彼の驚きは見ずともわかる。
「どうぞよろしくお見知り置きを。 この青木、微力ながら皆様のために精一杯尽くさせていただきます」
糸目を更に細めた青木が60度に腰を折った。
そしていつでも謙虚でいて実直に冷静に。
早々に手腕を発揮していった青木に対し助言を求める者は増えるばかりで、八神の会社は『お辞儀は膝に頭がつくぐらい』などの妙な慣習が出来た。
一流の家に仕えた執事生活40年の青木。
特に彼のスケジュール調整や対人へのバランス感覚は神レベルで。
静はそれからややして毎晩透子のお腹に耳をつけてから時には自らキッチンに立ち、心からの幸せを味わう日々を送ることが出来た。
透子は無事に女児を出産した。
初産にも関わらず、つるっと安産だった。
看護師曰く、産まれてからすぐ分娩室で夫とハイタッチを交わした妊婦を初めて見たのとのことだった。