第18章 死がふたりを分かつとも
泣き続ける透子を静は黙って見守っていた。
その後に、やや訝しげな彼の声色に透子は再び顔をあげる。
『それはいいが、だ。 さっきから後ろにいるその男はなんだね。 どこかで見たことがあるが』
透子の背後で時おりもらい泣きみたいに鼻をすすっていた佐々木が直立した。
『あっ、社長。 佐々木と申します。 この度は会長の命で白井様の』
さすが十年もここに勤めているだけあり、透子は佐々木を何かと頼りにしていた。
彼は一時は京吾の秘書室にいたが、性格的にそこに合わないと判断した京吾が、今まで他会社に配属させていたという本来は有能な人間である。
『佐々木さんには色々仕事を手伝っていただいてるんです。 毎日深夜まで』
涙を呑み込んだ透子が快く彼を紹介した。
『毎日………深夜?』
それでもやはり全てには手が回らない。
だが静の意識が戻ってくれれば百人力だ。
『はい。 これからも当面はこうやってやり取りしながら』
『………断る』
首が動かせないが、明らかに顔を横に向けそうに気分を害している静の様子だった。
『は?』
『その男がいるなら断る。 佐々木とやら。 それ以上透子に近付くな。 さっさと俺の部屋を出たまえ』
────これは重病人。
これは重病人。
心の中で言い聞かせていた透子の何かがぷちっとキレた。
『静さん? 私の負担を増やしたいのですか? 聞いていたのでしょう? 私の体がどうなってもいいと、そう思っていると?』
大体、誰のために無関係の人間を巻き込む羽目になっているのか。
まくし立てる透子の背後でオロオロしている佐々木。 同時に剣幕に押された静が口ごもる。
『う。 で、では…仕方ない……が』
『仕方ない?? すみませんでしたは?』
スンッとしょぼくれた静の体が小さくなった。
『………済まなかった』