第18章 死がふたりを分かつとも
「静様。 それ以上うちの子に向かって口を開くのはおやめ下さい。 くっ付けた腕をもう一度切り離してもらいたいですか」
「………美和ちゃーん!」
透子の長女は特に美和に懐いているようで、早速彼女に向かって駆けていった。
上腕をさすりながら静がブツブツと不平を漏らす。
「怖いことを言うな。 これの完治まで理学療法で二年かかったんだぞ。 お前にも昔してやった、ただの性教育だろう」
両手で三田村の子を持ち上げた静が肩の上に乗せると「キャア! あははっ!」とはしゃいだ悲鳴をあげながら笑った。
事故の際、あの時京吾が透子に佐々木をつけたのと同じく。
彼は静の方にも手を回し、出張の途中から『有能な者』を傍に置くように仕向けていた。
乗客に危害を加えた犯人らに抵抗した静の手助けをし、彼に応急処置を施したのはその人物のお陰だったらしい。
銃声の一つはその者への被弾で、搬送された際は外傷を除いては静よりも重体だったとの話だった。
その人物とは────肩車をしていた静がふと三田村に訊いた。
「西条………馬鹿夫の方はどうした」
それでもここも変わらない扱いのようだ。
三田村は現地で怪我を負ったが、西条と同じ病院での仲睦まじい入院生活のお陰か。
八年前に無事に西条夫人となり今は目黒邸を出ている唯一の人間だ。
「あの人も今は取締役ですから。 夕方に間に合うかどうか」
穏やかに言った三田村が遠くの空をのぞんだ。