第3章 自立(と調教)への一歩は王子から*
けれど、お見合いの相手が就職を斡旋してくれるなんて聞いたことがない。
「………なんでそんなに良くしてくださるんですか?」
「ん、働きたいんだろう? だがはき違えるな。 あくまで働くのはキミだ。 能力が無ければ普通にクビだからな」
「でも」
「言い忘れた。 キミの家からは通勤出来ないな。 あそこは駅からも不便だし。 ああ、目黒のうちから通うといい」
「あ、ごめんなさい。 それなら無理です」
「………あの白井の家にずっと居るつもりなのか?」
今の生活を思い、横に首を振る。
「いえ、次は誰かのお世話になるのは避けたいんです。 職が見付かって落ち着けばまた一人暮らしをします。 田舎に戻ることも考えましたが………新卒ならまだしも、余計に就職が厳しそうで」
「ではそれまでうちから通いなさい」
都内の別宅にも静が住んでいるという青木の話が頭に浮かんだ。
目黒のうちとはきっとそこのことだろう、と推測する。
男の人と………一緒に?
「なにか問題が? 目処がついたらいつでも出ればいい」
にこ、と静が優しげに口の端をあげ、ドキリとして俯く。
「そしたら……へ、変なことは……しませんか?」
「変、とは?」
「あの、こないだみたいな。 セ……」
「せ?」
「………エっ…え」
俯いてまごまごしている透子を見、静が口に手をあて軽く噴いた。
「………プッ」
「わ、分かって訊いてるでしょう!?」
「フ…つい。 かわいくて」
静とは基本的には紳士だ。
その辺りのことについては。
たぶん。
「大丈夫だ。 俺のその辺はキミも少しは分かってるだろう?」
とはいえ、奥手ということでは決してなく。
「た、確かに………でも」
むしろとても手が早いと、そう思う。
「無理にはしない」
「………」
「無理には」
「二回言いましたが」
じろりと睨む透子に、静が楽しげに笑ってみせた。
「フ……」