第3章 自立(と調教)への一歩は王子から*
また豪奢な車内に隣り合わせた静が、しぶしぶといった表情の透子に訊いてくる。
「さっきの会社………キミの希望は事務方か?」
「そう…ですかね。 それぐらいしか職歴が無いので」
「語学は英語の他に何を?」
「ええと。 少しだけ勉強したことあるのは中国語とフランス語ぐらい………仕事の片手間ですけど」
「これは読めるかね」
なにかの記事が載っているタブレットを渡されたのでそれを見た。
「あ、昨日の昼にフランスの大統領が会談したやつですよね。 西アフリカの支援問題で……電力供給で現地派遣、冬の国際会議に向けて企業参加」
「向こうの新聞が読めるなら問題ない。 通関士資格があるなら経理もか。 省庁の受付でも勤まりそうだが」
なんだか面接でも受けてるみたいだ。
指に顎を乗せ、車窓の外に目を移す静の意図が分からない。
「なんですか? で、なんで私の履歴書把握してるんですか」
「気にするな」
「気にします。 個人情報保護する気ゼ」
文句を言いかけるとそれをサラッと無視して静が話し出す。
「だがまあ、受付なんかさせて助平爺の目にキミを晒すのは御免だな。 そしたら貿易事務はどうだ。 事務とはいえ外国人相手の接客や会計も入ってくるし、言語はあと最低二つ。 スキルアップになるだろう?」
たしかにいま自分が持ってる資格や職歴からは、理想的な選択だろうと自分でも思うも。
「私、そんな仕事に就ける学歴なんてありません。 実務経験も足りませんし」
「学歴なんてものは単なる出自の証明に過ぎない。 前職の評判も申し分ないと聞いてる。 キミの人となりは俺が保証するから問題あるまい」
自分の前職の評判をなんで知ってるんだろう、とその辺りの質問をするのは諦めた。