第18章 死がふたりを分かつとも
PCとデスクを凝視して作業に没頭していた透子がノックの音にハッと顔をあげた。
時刻は午後一時半を回っていた。
集中しやすいように気を使ってなのか、佐々木は秘書室で透子の手伝いをしてくれていた。
「白井様。 本日15時に事件が報道されるようです。 一時間後には会長がこちらに来られます」
返事をしようとした透子の声が掠れ、先ほど美和が手渡してくれた栄養ドリンクのような飲み物を口に含んだ。
それから佐々木や彼の後ろにいる美和、PCやデスクの上に目を滑らせる。
何かを聞いてまた動揺したくはなかった。
「何らかの結果が出たら教えてください………いえ、今の状況を……すみ…ません、あ…結構で…」
どうしたいのか、どうすればいいのか────何を優先させればいいのか。
考えがまとまらなかった。
デスクに肘を置き、額を両手で抑えてしまった透子が黙り込む。
「透子様、一度手を止めてくだサイ」
美和の厳しい声に、透子が頼りない視線を彼女に向けた。
「会長は今まで警察署にいて、マスコミを抑えていマシた」
美和が話し始め、隣の佐々木も躊躇いがちに後に続けて口を開く。
「………今回のものは身代金が目的のようですね。 南米の一部は警察も機能していない地域もありますから。 彼らが今回ヘリも要求したのは、おそらくそのまま逃亡を図るつもりなのでしょう」
「指定の場所へは朝に飛行機を追った三田村さんと桜木さん、遅れて警察の人達が現場に向かっていて、今着いた頃デス」
二人に悲痛な様子がないのを充分見て取り、それでも透子の最後の声が震えた。