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琥珀王子と瑠璃色灰かぶり姫

第18章 死がふたりを分かつとも



京吾が平気なわけはない。
静の父親よりも悲しむことは許されるのだろうか。

彼には………京吾にはみっともない自分を見せたくない。
それは静に対するいつもの意地というよりも、京吾や静の世界をつかもうとする決意のようなものに近い。

透子がすっと顔をあげた。

「八神さん。 私、今から会社に行きます」

「………良かろう」

通話が切れた。

「透子様!?」

立ち上がった透子を止めようとした桜木に笑みを返す。

「大丈夫。 大丈夫です。 静さんの大事なものは私が守りますから。 そ、そしたらきっと」

静は笑ってくれるだろう。
喜んでくれる。

彼が今とてつもない痛みを感じている。
同じものを分け合うのだと約束をした。

それならば少しでも少しでも、静の苦痛をこの身にも受けたい。

「わ、ワタシは透子様に付き添いマス」

美和がぐっと袖で目元を拭った。
始終いつもよりも硬い表情をしていた三田村が素早い動作でPCを抱える。

「では、私は私のすべきことを。 誰よりも早く静様の元へ行けるのは私達のはずです。 桜木さん?」

「そう……そうですね。 わたくしとしたことが。 申し訳……っ、ございませんでしたわ」

無理に口の端をあげている桜木が痛々しかったが、透子がダイニングを見渡した。

そしてこの人もいつも通りだ。

「青木さん」

「心得ております。 先ほど兄へ連絡をしました。 全ての情報の配信と皆様へのフォローはお任せを」

「青木さん、犯行の人にはポルトガル…というよりも、南米のアクセントがありました」

「はい。 おそらく過激派では無い………すると吉報ですな。 それも察しております」

穏やかに言う青木だった。
乗客を巻き込んで自決を謀る、犯人はそのような者でない可能性があるということだ。

室内に差し迫った緊張感が張り詰めた。
諦めない。 静を助けるのだと全員の気持ちが一つになったのを感じた。

「皆さん、どうか………!!」

ひと言残し、早足で部屋を出て行く透子と後をついて行く美和の背後から、毎朝の青木の声が追いかけてきた。

「はい。 透子様、行ってらっしゃいませ」




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