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琥珀王子と瑠璃色灰かぶり姫

第18章 死がふたりを分かつとも




「あっ…あ! で、でも、でも……でも……!!!」

「透子様………!」

伸ばした腕が空を切り、頭を横に振って取り乱した透子に桜木が走り寄った。
彼女がガタガタ震える透子を抱きしめた。

「し、しず………」

青木の声が耳を掠める。

「透子様。 会長よりお電話です」

その場で動けなかった透子に青木がスピーカーにしてくれたのか。

「………白井透子」低くくぐもった京吾の声だ。

「や、八神……さ、ん」

「出社したまえ」

「え………? でも、今…静、静さんが!」

「だからだ。 あれは取締役として今まで誰一人下に人を置かなかった。 きみが穴を埋めろ」

誰も話さないダイニングに無機質な京吾の声だけが響いていた。
なぜ彼がこんなに冷静なのか理解できなかった。

見えない京吾に向かって透子が力なく首を横に振った。

「それは…すみません……で、出来ませ……」

「………静の役に立ちたいのだと言ったのは、きみの言の葉は戯れ言か?」

「………」

出社?
静の穴を埋める?
普段でも無理だと思うことをこの状況で?

それでも、目を宙に置いて考えているうちに段々と透子の気持ちは落ち着いてきた。

「あ、あのっ!! お言葉を返すようでなんですが! 透子様は今はそんな精神状態ではないのです。 あっ貴方様もご自分の……!!」

「ん………桜木か。 久しい。 つくづく情に脆くいい女だな。 どうだ? なんならまた横浜に戻ってきてもいい…クク」

────こんな時にも京吾は崩さない。

「………あ、あ貴方という…人、は………」

言葉を失う桜木の腕の中で、透子は微動だにせず考えるのを止めずにいた。



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