第18章 死がふたりを分かつとも
四日目の朝に出社しようと寝室のドアを開けると、廊下の足元に小さな包みが置いてあった。
不思議に思い包装紙を開いてみたら、優しく微笑んでいるバージョンの静人形No.2が入っていた。
目尻が下がり、薄らと口の端が上がっている。 なぜだか年始に過ごしたロッジでの静の服装だった。
「か、可愛い………っ」
思わず呟いた透子が、人形をぶんぶんと左右に掲げたあとにキュッと胸に抱きしめた。
ここの所青木以外とはあまり顔を合わせていなかった。
けれども他の皆もきっと気にしていてくれてるのだろう。
毎朝、美和特製の栄養ドリンクやサプリメントが用意してあるし、部屋もきちん整えられてシャワー室や寝室には安らげる香りがいつも漂っている。
「ありがとうございます………!」感謝の気持ちでいっぱいになった透子が小さく叫んだ。
「透子様、行ってらっしゃいませ」
開けた窓から透子が顔を出した。
朝の五時は暗く藍色の空が広がり吹いている風も凍るように冷たい。
「青木さんもいつもありがとうございます」
「いいえ。 これがわたくしの仕事でございますから」
そんな中、にっこりと笑った青木が透子を見送ってくれた。
『不幸には目をつぶり、幸せには慣れないこと』
小さい頃に母からそう教えられた。
その時はなんのことかよく分からなかったが、親が亡くなってから時おり思い出す。
今は閉まったまんまの父母の形見の代わりに、透子は事ある毎に左手の薬指のリングを握りしめる。