第18章 死がふたりを分かつとも
一日、二日、三日と日々は過ぎていった。
出社してしばらく経つと透子はブラインドをすべて引いた。
最近ここでしか陽の光を浴びることは無いからだった。
全面ガラス張りの36階からは様々なものが見渡せる。
今朝は薄いブルーにぼんやりと煙のような雲が広がる空。
飛行機雲を見付けて、静のことを想った。
目論見どおり透子の生活は仕事に追われ多忙だった。
だがどんな時間でも家に戻ると青木が車のドアを開けて出迎えてくれる。
「透子様、朝は何時のご出立で」
「四時の予定です」
「………かしこまりました」
そして行きがけは透子が車内で飲めるようにお茶を入れた水筒を用意してくれていた。
そんな心遣いは心まで温かくなりとても有難かった。
………二時間は休めるはずだ。
朝に軽くシャワーを浴びるに留め、服を脱いだ透子はそのままベッドに倒れ込んだ。
ほぼほぼ夜中に帰り、早朝に家を出る日が続いた。
だがその中でも気付いたことがある。
仕事が異様にやりやすいのだ。
丸井の会社はもちろん、その関連でも透子を軽んじる人間がいなかった。
名刺の人間の反応は早かったし、ちょっとした雑務で社内の人に何かを訊いても迅速に対応してくれる。
「ああ、そうか」
ふとした拍子に透子が呟いた。
出社初日に社長である静が自ら迎えに来てくれ、かといって怪しげな仲ではないと京吾が同行して気を使ってくれたのだと思い付いた。
わざわざ二人で徒歩でのランチに応じてくれたのも。
噂なんてまたたく間に広まるものだ。
京吾に対し好感は持っていたのだが、自分の中で誰かに対し、『尊敬』という言葉がはっきりと芽生えたのを自覚したのは透子にとって初めてだった。