第17章 I love you と言わない*
彼の後ろ歩き出すと京吾が声をかけてきた。
「気が削がれたのなら戻ってもいいのだぞ」
少し歩を速めて前を向いたままの、彼の冷ややかな印象の顔を見る。
「いいえ」
「そうか。 ではもう一件付き合いたまえ」そう言い、彼が入っていったのは有名デパートだった。
有名デパート………の、婦人コーナー?
「あの辺か」
などと呟く京吾について行く。
「服装は以前より少しはマシだが、あんな安っぽいハンカチなど身に付けるものではない。 人とはちょっとした事でお里が知れるというものだ」
「はあ………スミマセン」
余計なお世話な説教を食らいながら連れられた先は、有名ブランドなどがずらりと並んだハンカチ売り場だった。
「ここからなるべくいい物を十枚選べ」そう言った京吾が両手を杖において石像のようなポーズで立った。
「いえ、そんな………あ、もしかして。 さっきのを気にしてくれてるのですか?」
透子が訊くと京吾がふいと横を向いた。
「これは業務命令だ。 いいか、きっかり十枚。 わたしの目は誤魔化せられんからな」
そんな事を睨みながら言ってくる。 業務命令って、一体なんなんだろうこの人は。 仕方がないので透子がハンカチを吟味し始めた。