第17章 I love you と言わない*
見上げるとちょうど街路樹がある。 カラスかなにかに襲われてあそこから落ちたのだろうか。 透子が眉をひそめた。
「………可哀想に」
せめて人の通りの少ない場所に移動させよう、とかがもうとすると「邪魔だ、どけ」と京吾の声が降ってきた。
それと同時に彼が鳥に向かって持っていた杖を振り下ろす。
「え、八神さ…!」
ピィ!! と甲高い声があがり、その瞬間透子がぎゅっと目をつぶった。
「八神さん………」
「わたしの前で汚らわしい姿を晒すとは目障りな。 その辺の道の端に捨ておけ」
冷たく言い放った京吾がクルリと背を向けた。
透子がハンカチをバッグから出し、鳥をその上に乗せる。
首がちぎれかかった鳥はピクリとも動かなかった。
「ひでえな」
「鳥さん、かわいそうー」
京吾に向かって周囲の非難の声が耳に入ってきた。
『中途半端な優しさを向けるものは大勢いる。 それがどんな残酷なことかもわからずに』 透子はいつかの八神の言葉を思い出していた────京吾はもう飛べない鳥に自らの手を汚したのだろう。
彼のようには出来ない。
なのにそれに対し反論した自分はまだまだ浅い。
透子が少しばかり自分を恥じ入り、それから小鳥を道の脇の植え込みに置いて唇を噛み手を合わせた。
八神京吾。 とても厳しく切ない人だ。