第17章 I love you と言わない*
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不機嫌そうに透子を横目で睨む京吾である。
「一体なんなんだね。 さっきからニヤニヤしてわた しの顔を見おって」
冬晴れの空の下、こうやって静の父親とランチに行けるなんてこの上なく素敵なことだ。 透子が浮かれ気味に返事をした。
「いいえ、何でも! 今日はお車ではないんですね」
「なるべく歩かんとな。 足腰がなまっては困る」
分厚い生地で、ガッシリとした印象のコート。
今日の彼は杖をもってはいるが足運びから察するにそれは体を支えるためでは無いらしい。
それはいいが、先ほどホールで待ち合わせた時のことだ。
昼休憩で社員がごった返す中。
京吾を見掛けるとザザザと行く先に道が出来た。
モーゼかこの人は。 透子は呆気に取られながら京吾に続いた。
「あれ、一緒にいるの、誰?」
「普段見掛けないけど…今朝社長と居なかったか」
「姪御さん………にしては随分雰囲気が違うし」
透子に対しコソコソそんな会話も聞こえ、それについては気恥ずかしかった。
今歩道を歩いていても会社員らしき人がチラと振り向いてくる。
何度もビジネス雑誌の表紙に載ったことがあると西条が言っていたことを思い出した。 有名な人なんだろう。
その途中で京吾が足を止めた。
何だろうと思い、透子が彼の足元を見ると歩道に小鳥が落ちていた。
まだ生きてはいるが羽がちぎれて息も絶え絶えだった。