第17章 I love you と言わない*
透子が漏れそうな声を堪えて静の胸を押した。
「そ、れは、静さんの……せいですっ…から」
「そう言ってくれると男冥利に尽きる」
こ、この男は…っ!!
また流されそうに力が抜けかける手に無理やり意識を集中させ、すると静が少しだけ体を離した。
「で…でもっ! 西条さんは心が寄り添っていく過程が大事だと………私も、そう…思います」
その隙に何とか中途半端に起き上がった透子が衣服の前を合わせる。
それとは逆にジャケットを脱いでテーブルに置いた静がワイシャツの胸元をゆるめた。
「ン……あんな男の戯言など」
「静さんはそうではないのですか? 最初から、か、体が一番だと………?」
「まさか。 そんなわけは」
二つばかりボタンを外した胸元から男性らしい中心線が垣間見え、朝の光で輝く静の肌から透子が目を逸らした。
そんな透子を見ていた静が考え深げに目をそばめ、それから小さく息をはく。
「ふう。 俺は早々にキミを抱いてしまったから………気にしているのはおそらくその点なのかな」
「………」
「もう二十代後半の男がだ。 三田村を大事にしていると自分で思い込むのはいい、が。 俺が気に食わないのは奴がそれを美化しているところだ」
「美化?」
「所詮は自慰………オナニーしてるのと変わらないのにな。 加えて奴はそれ以外を否定するほど敬虔な人間では無い。 俺は奴の性についての本性を知っている。 大いなる欲求不満を、Loveだのなんだのとすり替える。 寄り添う心などとは笑止。 今の奴に分かるわけがない」
心から馬鹿にしたように西条を見下す静だが、透子は納得がいかなかった。