第17章 I love you と言わない*
そう察した透子が当たり障りのない会話を振ってみた。
「滅多にないな。 今日は午前中の年賀の挨拶に寄っただけだ。 午後は各社を回る。 海外の方は静に任せているから」
「ではお昼でも一緒にどうですか?」
「なに?」
なぜこの人はこんなことにまで凄みをきかせて睨むのだろう。 彼の本性を知っている自分からすると、もう少し手を抜いてもいいのではないかと言いたい。
「あ。 もちろん、ご予定がなければですが。 私はここにまだ知っている人がいないので。 静さんも?」
それに対し静が素っ気なく答えた。
「俺は昼前には社を出るから」
「フフッ…いいだろう。 それでは12時にホールで」
他方で口の端を微かにあげた京吾が返事をした。
先にエレベーターを降りた京吾に「ではまた!」と返し、「この辺りでお勧めのランチはありますか?」静に訊きながら透子が顔をあげた。
「………静さん? なに笑ってるんですか」
口元を覆い隠しても表情的に分析すると目尻が下がり肩を震わせているこれは明らかに笑っている。
そして「いやまあ」などと言って透子の腰を引き寄せてキスしてこようとする。
「ちょっと、ここは会社ですから!」彼の顔を両手で張りつつ二人が最上階に降りた。