第17章 I love you と言わない*
会話の内容を聞かれたかと思い透子が焦るも。
「い、今の見たか、社長が笑ったぞ」
「今日は雪でも降るのか? えと、天気予報天気予報」
「えっ! ちょ、眩しすぎて直視できなかったわ。 ワンモアっ」
………少しばかり違うらしい。
「ま、そうしろと言われたのもあるが」
そんな周囲を無視し、自動ドアをくぐり言った静がくい、と顔を出入口のエントランスホールに向ける。
透子がバッグを取り落しそうになった。
「や、八神さん!?」
仏頂面でエレベーターの前に立っていたのは京吾だった。
「お正月は失礼いたしました。 ええとなぜわざわざ…?」
透子の質問を無視して京吾が眉間に皺を寄せた。
「会長と呼びなさい。 ここでは静も八神だろう」
そう言われれば確かに。 それにしても、同じ仏頂面でも静のそれとは年季が違うものだ。 京吾に対しては腫れ物でも触るように明らかに周りが余所余所しい。
そしてエレベーターの中に乗り込んだはいいが、その間しばらく三人は無言だった。
「………八神会長も、主にここに出社されるのですね?」
この二人はきっと普段から世間話などしないのだろう。