第17章 I love you と言わない*
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丸井物産は静の会社の中でも一番大きな総合商社である。
新宿から徒歩七分だという、36階建ての自社ビルのコバルトブルーの全面ガラスが朝陽に反射してキラキラと輝いていた。
「────ハッ、朝からくだらない会話を俺に聞かせるな」
わざわざ表に出て透子を迎えに来てくれた静だったが、開口一番車内の西条に向かってそう言った。
静が勝手に聞いていた癖に、などとは今更だ。
若干ショックを受けている様子の西条が気になり、透子がフォローに回った。
「でも西城さんの気持ちは分かります。 仰っていたことはお互いを尊重し合うってことですよね」
すると静が西条をフン、と鼻で笑った。
「そう思うか? ………まあいい。 西条、うちの車を送迎に使うのは構わないが、俺の従業員にあまり情けない姿を晒して欲しくはないな。 さて透子、おいで」
「は、はい」
固まっている西条を気にしつつも透子が車を降りた。
まだ早い時間だが、チラホラと出社し始める社員もいるようだ。
門をくぐってから静への会釈と挨拶が飛び交い、長々と周りの視線が一気に集まっている中、透子はギクシャクして静と歩いていた。
というよりも、こんなふうに並んでいると周囲からまた変に思われそうだ。
小声で静に訊いてみた。
「静さんがわざわざ迎えに来てくださらなくても良かったのではないですか」
「午後から俺はフライトだから。 少しでもキミと長くいたい」
静が甘い微笑みを透子に向けた途端、ザワッ、と周りにどよめきが起こる。