第3章 自立(と調教)への一歩は王子から*
静のこめかみの辺りがピクリと動き、本能的に薄ら寒いものを感じたので、話題を変えようと試みた。
「ところでなんでこんな所に? 暇なんですか」
「………ああ、そうだった」
ふーっと息をついた静がスマホを手に取り、そのまま話し始めた。
「俺だ。 目標は見付けたからもういいぞ。 また頼む事があるかもしれないから、くれぐれもと各社に伝えといてくれ」
「各社」
「うちが持ってる興信所だ。 警視庁はこのケースでは動かんからな」
どうやら自分は捜索されていたらしい。
私は犯罪者かなんかなんですか、と言いたかった。
「で、キミは俺を放ってなにをしていた?」
「放って………?」
耳元の小さなイヤホンを胸ポケットに仕舞う静に首を傾げる。
そんな透子にイライラした様子で静がやや声を荒らげた。
「そんなかわいらしい仕草では騙されんぞ。 優しくすればキミもそうしてくれると言っただろう。 俺はあの日そんなに不誠実だったか? 射精も我慢したのに!」
「し、しゃ………?」
「男にとってアレがどんなに辛いものか解るか?」
周りの好奇の目を見回し、アワアワ焦った。
「いや…あの………その辺の共感はちょっと…出来かねます、申し訳ございません。 というか、ここ外ですから」
お願いだから黙って、というか黙れ。 心の中でそう叫んだ。
一歩前に近付いてきた静が顎で自分の車を指す。
「フン………まあいい。 行くぞ」
「えっ? どこ、というか…無理です。 私は用事があるので」
「用事だと? それは俺よりも重要なのか」
「はい。 死活問題ですから。 面接があと一件」