第3章 自立(と調教)への一歩は王子から*
『八神さんはどうやら、きちんと働いて自立してる女性を好まれるみたいです』
『まあ、そうなの? そうねえ、社交の場も多いでしょうし………今どきはそんな時代なのかも』
義母にそんな嘘をついて就職活動を初めてはみたものの。
「私って市場価値がないんだなあ………」
歩道の脇にあるベンチに力なく腰をおろし、ため息交じりに呟いた。
「────そこの女」
それでも少なくとも、今の時点で見合い結婚なんて不確かなものをあてにする気は無い。
遺産や貯金にも際限があるし、いざという時のために残しておきたい。
「犯すぞ貴様、いい加減」
ここは有楽町のオフィス街。
さっきから、見覚えのあるやたらでかい車が公道に止まってると思ってたら。
「犯罪行為を重ねるのは止めてください」
業を煮やして降りて来たのかは分からないが、透子の目の前にいたのは静だった。
さすがに夕方になると今の季節は冷えてくる。
長身の人はロングコートが似合うなあ、などと思った。
しかし静の表情はムスッとしている。
出会う時の彼はいつも機嫌が悪いようだ。
「………あの日に勝手に帰ったと思ったらなんなんだ? この一週間というもの。 青木がいつ連絡しても家に居ない、キミの手にあるそれも、通話の機能を果たしてないのかね」
「最近やたら鬼電かかってきてたやつですか? 怖いからブロックしました」
「………」