第17章 I love you と言わない*
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翌日、朝の八時。
東京は今朝も快晴だ。
今時分は毎日のようにどんよりと低い雲がかっていた地元と比べるとたまに季節感が狂いそうになる。
先に出社した静のいる新宿のオフィスへと透子は向かっていたが、今朝方、車内の隣には珍しく西条の姿があった。
「同乗しちゃって悪いね。 時間的にオレとぴったりでさ」
彼が身に包んでいるのはダークグレーのスーツ。
静より高い、190センチもある西条の身長からすると地味なデザインではあるがピッタリと体に沿った仕立ての良さが一層映える。
自分がそんなことが分かるようになったのもつい最近のこと。
「西条さんのご自宅はどこなんですか?」
「ん、まあ、日比谷?」
日比谷なら直接出社した方が早いのではないだろうか。 なぜわざわざうちに来てから新宿経由してまた丸の内へ?
と透子が一瞬不思議に思ったが、彼の目的は多分三田村なんだろう、と思い付いた。
目黒に来た時に彼女と挨拶を交わしていたのを思い出した────だがそれはおそらく、未だ口実を必要とする関係だということだ。
「三田村さんとのご旅行はあれからも楽しかったですか?」
そう訊いた透子の方をチラリと見た西条が軽く息を吐いた。
「白井さん。 静の影響なのかな、他人の恋路を詮索するのは低俗なことだと思う」
「す、すみません」
しかし静はそんな心情は欠片も持ち合わせてないのでは。 透子が思ったが、西条の指摘はもっともだと反省しかけた。
「実は旅行中はね。 円花ちゃんとずっと手を繋いでたんだよ」
あ、話すんだ。