第3章 自立(と調教)への一歩は王子から*
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殺風景な事務所の一角を区切ったパーテーション内で、透子は地味な紺色のスーツに身を固めていた。
「白井透子さん……ね。 高校を卒業後は事務職へ。 へえ、でも、凄いね。 どれも大学卒業レベルだよこれ。 地方公務員の上級と通関士に英検一級。 高校の時に?」
「はい。 大学受験がなくて時間が余っていたので」
とりあえず受験料が安くて使えそうな資格を取っただけだ。
数人の面接官らしき男性が履歴書や職歴に目を通し、時々顔を見合せたり驚いたように質問をしてくる。
「で、養子縁組で退職して上京か。 いや良いんだけどね。 白井さん、今からでも狙う気ないのかな? 大学」
「いえ、私は自立して働きたいんです」
「うーん、勿体ないね。 うちではきっと物足りなくなると思うよ」
「………」
これで三社目。
どれも快い反応が無かった。
綺麗に碁盤に道が整った、ビジネス街のメイン通りをトボトボと歩いていた。
「……とはいえ」
逆にいい企業だと学歴や実務を必要とされるし。
まさか良かれと思って取っといた資格が足枷になるとは。
社会人二年足らずの経験なんか、たかが知れてる。
地元で就職したのはブラックな会社ではあったけど、自分でお金を稼いで生活していた毎日はそれなりに充実していた。
「────おい」
今の生活。
寝食には困ってないとはいえ、義母は私が外で働くことを良しとしてくれなかった────かといって、日常の細々に対する生活費をくれる訳でもないし、そんな義理もない。 成人にもなって、と自分でも思う。
「────聞こえないのか」