第16章 大人の遊戯*
「静さんはそのままで?」
「ああ。 俺は慣れてるから」
「そうなんですか……一度、静さん一人で乗ってるのを見せてもらっていいですか?」
「構わない」
と静が快く受けおってくれた。
「突然大声を出したり手綱を引かないように。 体を前傾にしてから、もう片方の鐙(あぶみ)に足をかけて」などとレクチャーをしながら慣れた様子で静が鞍に座り、踵で軽くソフィーのお腹の辺りを蹴る。 すると馬がトットットッと囲いの中を軽快に走り出した。
「何だか簡単そうですね?」
体が大きいだけに安定しているようにみえる。 一周して戻って来、透子が訊くと静が軽く笑う。
「そうでもない。 乗馬は数十回も乗ってやっと一人でゆっくり歩けるようになると言われてる。 運動神経というよりも、姿勢とバランスを保つのが最初は難しい」
そう言われれば静は真っ直ぐ座っているように見えて前に傾いているような。
それから二周ほどして戻ってきた静がソフィーの首をひと撫でしてから降りた。
透子もそれにならい、そっと彼女のたてがみに触れてみた。 黒くてツヤツヤしたそれは手触りがよく、チラと透子を見るもソフィーは心地良さげに目を細めてくれている。
「一人で乗ってみたいです」