第16章 大人の遊戯*
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馬の顔というのは不思議なものだ。
テレビなどで昔、遠目から見たときは優しそうに見えたのだが、微妙に白目が混ざった瞳でギロッと睨まれると案外強面であるし大きいだけに迫力だ。
馬の周りをぐるぐる回ってはキッとこちらを見て来るので、どうにかして馬の死角を探していた透子に、静がクスクスと笑いながら近付いてきた。
「何をしてるんだ」
今いる場所は広い牧草地。
丸く囲った柵の中では一頭の馬が綱に繋がれており、静がここからもみえる多少離れた馬小屋らしき所から何か道具を持ってきた。
乗馬は主に京吾の趣味で、一般にも乗馬クラブとして活動している所もあるとか。 静がそんな説明をしてくれた。
「いえ、思ったよりも大きいなと……こんなのに乗るんですか?」
「ソフィアクローナ、祖母の名を取っている。 ソフィーと呼んでいるが大人しい子だ」濃い茶色で筋肉質の馬────ソフィーはいかにも頑丈そうで、静の姿を認めると透子に向かって凄むのを止めてくれたようだった。
「外周……と。 この囲いの中だけかな。 俺が手綱を引いてあげるから。 これは雌馬で父親のものだ。 この大きさだと何なら二人で乗れるな」
静の話によると馬の背中に着いている椅子のような鞍の上に乗るらしい。
「そういえば私、スカートなんですけど」
「速歩はしないし下はタイツだろう? ブーツに巻くチャップスを持ってきた。 人払いはしてあるし、それでも一応ヘルメットを」
渡されたこれはプロテクターのようなものだろうか。 マジックテープで足にグルグル巻く。
言われたとおりに透子が準備をしつつ、ソフィーのたてがみを撫でている静を見上げる。