第16章 大人の遊戯*
「はい…確かに」と思わしげに腕を組んだ篠田だったがそこにはそれほど困った様子はなかった。
「牧場だけの経営だったここに、野菜や果樹を併設するようにと提言くださったのが社長ですから。 昨年からは作付の合間に飼料を栽培してますし、そのお陰で、ここの減収は今期は半分で済んでます」
「だが全てにはまだまだ手が届いていない。 透子、うちには飲食関連の社も都内にあるのだが」
くるりとこちらを振り向いた静が突然透子に話を振ってくる。
「え、あっはい」
「いくつかのこのような農場や牧場などと独占契約をしている。 国際経済や災害、作付とのバランスや流通コストの軽減。 そんなものを見極めるのも俺の仕事の一部になる。 主だった重役と会議を重ねるのはもちろんだが、経営者と直接会話をするのも大事なことだ」
「………」
業務の範囲がひ、広過ぎる。
ポカンと口を開けかけた透子だったが仕事は明後日から始まるはずだ。 そう思い、かろうじて頭を切り替えた。
「それではまずは私のやることとしては……静さ…八神の各社を調べるということですか?」
そこから枝分かれしている企業や動きを把握する。 一番にすることはそれなのかと透子は思った。
「急にそこまでのことを俺はキミには求めてない。 併せて、逐一報連相を俺に求めるな。 特別に教育する気もないから。 二度手間は無駄でしかない」
「それはどういう………」
「そんな暇は無いということだ。 理解してくれると有難い」
静の言うことは分かる。 でも、それでは自分は何をすればいいのだろう? 考え込もうとする透子に静が穏やかに声をかけてきた。
「心配するな。 それなりに考えている」
「社長。 あ、あのその女性は?」
そのやり取りを聞いていた篠田が遠慮がちに口を挟んできた。
「彼女は俺のパートナーだ。 今年から仕事を手伝ってもらう」
「………これはこれは」
静に紹介された透子が慌てて頭を下げた。
篠田もそうしかけたが、少しの間透子をじっと見てからまた踵を返して前を歩き、静に話し始めた。
「社長。 そういえば来月に提出する予定の────」
「………?」
何だろう、無視された…ような……? とは思うも、透子は彼らのあとに続いた。