第16章 大人の遊戯*
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今朝は遅めの朝食ではあったが、そろそろ空腹を示すお腹の音を車のエンジンで誤魔化す時間になってきた。
「ちょっと空気が乾燥しているな。 透子」
それで静に口に放り込まれたものを反射的に含んだが、次の瞬間透子がそれをぺっと吐き出す。
「………何の真似だこれは」
自分の手の上に出された物体をどうしようかと一瞬視線を下ろした静が車内前面のガラスに目を戻した。
「とか言ってだって、どうせまた変な薬なんでしょう」
不満げな表情で透子が文句を言った。
「キミは反抗期の乳児か。 ただののど飴だ」
仕方がないので静が備え付けのウエットティッシュで手を拭う。
「じゃあ、ください」
「ったく…人を疑うのもいい加減にしたまえ」
「普段疑われるような行動をしてるからです」
あーんと口を開けた透子にまた飴をやると「あ、美味しい」と嬉しそうに呟く。
隣で微かに声を立て笑う静に「何ですか?」そう訊くも、彼は「いや、別に」と答えただけだった。
それからチラと時計に目をやり透子に訊いてくる。
「14時にもなれば次はランチか。 外で食すには本来なら寒い時期だが」
先ほど神社で歩いていた時も透子は思ったが、今日は歩いていればコートも不要なほどの陽気だ。
改めて空を見るも雲一つなくすっきりと抜けるような青さ。
その下を車が勾配のある塗装された道路を登って行った。