第16章 大人の遊戯*
敷地内の外に差し掛かり、このまま帰るのかと思っていたら境内を出る所でピタリと静が足を止めた。
「まだここは先代が治めているらしいな。 それならばおみくじを?」
「引きたいんですね?」
透子が小さく笑いながら元の道を戻り、それぞれにおみくじを購入した。
「………」
「………わ、大吉!?」
め、珍しい。 さっきの事で悪い運を使ったのだろうか。
クジ類に滅法運のない透子がそれを両手にささげ日にかざして感動をあらわしていた。
「静さんは」
手元の紙をじっと見たまま無言の彼をひょいと覗き込むと『小吉』とある。 凶とはいわないまでもいいものではない。
「俺は今まで大吉以外は引いたことがないのだが………」
先ほどの態度といい、彼は神仏に対しては割と敬虔な一面があるらしい。
おみくじがそれにあたるかどうかは分からないが、少なからずショックを受けている彼の様子である。
「刃物なんか振り回したからじゃないですか?」
「む……だが、これからは運を互いで分け合うと」
「そんな話しましたっけ?」
しらっと顔を横に向けると拗ねたような静の声が聞こえてきた。
「透子それはずるくないか」
「ふふっ、嘘ですよ冗談。 ほらこうやって…静さんのも」
彼のこういう所は可愛い。
顔をほころばせながら透子がキュッキュッとおみくじを所定の場所へくくりつける。
「なるほど………これならば今年は」
「お互いに中吉ですね!」
元来たように手をつなぎ、透子がふふと笑った。
「考えようによっては過度な運は時に人を甘やかすものかも知れんな。 神社の跡取りに生まれたどこかのせがれみたいに」
静が感慨深げに頷いていた。
奉納されたおみくじの中には先に透子と、重なるように静のものが括られている。
それを目の端に置き、二人は軽い足取りで神社の階段を降りた。