第16章 大人の遊戯*
それから外に出るまで無言で歩き、透子がくいと静のセーターの袖口をつかむ。
「嫌な思いをさせてすみません」
視線を下げて透子に顔を向けた静が「なぜキミが謝る」と訊いてくる。
「………静さんって、もしかして私の中学時代のことも知っていました?」
「ああ。 まあおそらく………想像するだにキミの両親が亡くなり、キミに失礼な行為をしようとした教師を非難する者が居なくなった。 そして他の教師たちや父兄が真相を隠蔽したのだろう」
苦々しい静の顔だった。
「子供という立場はいつも弱いものだから」そう付け加える。
外に出てスマホの時計を見るとお昼が過ぎた所だった。
「教育委員会にツテがないこともない。 もしもキミがまだ気に病んでいるのなら」
こちらを気遣って見てくる静だった。
そんな彼は……この人は事件を知った上で信用してくれていたのだと。 そして、それに対し今まで自分の胸の内に閉まっておいてくれたことが嬉しかった。
「いいえ。 もういいんです」
静のその気持ちだけで充分だった。
そういえば、と透子が思い出す。
あの当時も友人の励ましに随分と救われた。
転校したのも同窓会に出なかったのも、彼らにこれ以上気を使わせたくなかったからだ。
けれどいつかまた、みんなと笑って会えることが出来るだろうか────そんな日が来ればいい、と透子は思う。