第16章 大人の遊戯*
黙っている透子にそれを同意と取ったのか、彼が話を続ける。
「だからあのさ。 そりゃ白井さんって成績とかも良かったけどさ。 女が目立ち過ぎるのは良くないんだって。 現に白井さん、中学転校したけど、あれって実は肩身狭かったからでしょ? あんな恥ずかしい事件はオレの記憶の中でも白井さんが最初で最後」
直後「ひっ」と石黒の声が上ずり、透子が顔をあげると静が立ち上がって石黒を冷たく見下ろしていた。
「下郎め。 黙っておればさっきからベラベラと。 命が惜しければ口を慎め」
石黒の眼前にはどこから出してきたのか日本刀の切っ先が光っている────と、いつかの記憶を辿り透子が床の間に目を向けると刀置きにモノがない。
「そ、そそれ、模造刀だし」
逃げようと後ずさる石黒にずいっと静が一歩踏み出す。
透子の予測からするとこれは今朝の比ではなく静の超不機嫌モードである。
「その物の見えん目を突けば失明ぐらいするだろう。 それより減らず口の舌を抜きたい所だが………こんな場所でそうするのはげんが悪いな?」
「静さん、落ち着いて下さい」
「至極落ち着いている。 が、こやつの話はどうも不愉快極まる」
改めてぐるりと周囲を見回した静が刃を鞘を収め、座卓にそれを置いた────そうして「勿体ないことだ」とポツリと呟いた。
「も、もう帰りましょう?」
固まって腰を抜かしている石黒を素通りし、静がお嫁さんに見て声をかける。
「美味い茶を馳走になった」
「あ、い………いえ」
ぱちくりと目を大きくしばたたかせている彼女がかろうじて口だけを動かした。
「またお騒がせしました」
彼に続いた透子も広間の入り口でお辞儀をしそこを出た。