第16章 大人の遊戯*
透子が立ち上がりかけたのと静が口を挟んだのは同時だった。
「石黒くん、ちょっと」
「妻を辱めるようなことはやめたまえ」
静の物言いがキツかったのか、石黒が彼の方向に向き直った。
「は…親切で言うけど。 これは単に躾の一貫だよね。 少子化なんてのもまあ、女の社会進出が原因ってのもあるけど、男の威厳が無くなったのも問題だとオレは思うワケ」
「こう言うとオレもフェミとか言われるんだけどね、視野が狭いのはどっちだって話」肩を竦めた石黒が静に同意を求める。
しかし変わらず無表情の静の反応だった。
それに石黒が拍子抜けというか、どこか消化不良に感じているのを透子が察した。
自分が偏見に溢れている癖に、人によって薄い言葉で物事を正当化しようとする石黒の癖は変わってない。
早く帰りたいなあ。 と思い、透子がついと吐いたため息はさらに石黒の気に触ったようだ。
「たとえばさあ。 男教師を誘惑するような貞淑じゃない女は選ぶべきじゃないよね」
「………それは私のことを言ってるの? あの件については周りの友達は誤解だって庇ってくれてたと思うんだけど」
「もちろんオレも信じちゃいなかったよ。 気の毒だなあって。 ただ白井さんにそう思われる隙があったのは確かなんだよね、違う?」
「………」
石黒にどう思われても構わない。
ただこの話を今さら蒸し返して欲しくはないし静に聞かせたくもない。