第16章 大人の遊戯*
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それから山を降りて小さな繁華街を通りがかり透子が口を開いた。
「静さん。 ここにも神社がありますよ」そう言った透子に静が答える。
「せっかくだからもう一時間程走るが名の通った方に行こうと思っていた。 ここがいいのか?」
「うーん、有名な所ってお祭りみたいになってませんか? 人混みは少し苦手ですし」
人出が余りなく、暗い外観ではあったが過剰な初詣の演出もなく、古くからありひっそりと佇んでいるその様子が透子は気に入った。
「そうだな。 神聖であるべき場所に、しまいに屋台などが出ていると興醒めする」同意を示した静が車を駐車場に入れた。
だがその後、透子はここを選んだことを後悔することになる。
「おみくじなどを引いておくかね?」
「私、クジ運が昔から悪いんですよね………」
鳥居を潜り、石段を登っていた静が自然に透子の手を取る。
そんな静を少しばかり不思議な気持ちで見あげた。
「それならば俺の運をキミに譲ろう。 これからはそんなものは分け合えばいい」
優しく微笑む静に顔と胸が熱くなった。
未来をこの人と分け与え合う。 そんな幸福があるのだろうか。
言葉をかけてくれた静の手をきゅっと握り返し、透子は何も言えずに足を進めた。