第16章 大人の遊戯*
「語らっているでしょう!」
「負けず嫌いも過ぎるだろう! ああ、それとも可愛い嫉妬かな!?」
「プッ、負け犬の遠吠えというやつですか?」
あと二十メートルという所か。
背後からの声の位置で勝ちを確信した透子がラストスパートへと向かう。
岸の上ではボート貸出し係の男性がオロオロしてこちらの方を見ていた。
「お騒がせしてすみません!」
もう少しで岸に着く瞬間だった。
透子の視界の隅を横切りボートを飛び降りた静がダン! と岸に足をつける。
その足先でピタとボートを止め、呆気に取られる透子を悠然と見下ろした。
「…ずっ、ズルい!!」
「負け犬の遠吠えというやつか?」
「ぐぐ、もうひと勝負!」
ぜいぜいと息をつきながら再びチケット売り場に向かうも「お客さん…申し訳ないですが困りますよお」貸出し係の男性が弱りきって断ってくる。
背後でニヤニヤして腕を組んでいた静が「仕方の無い子だ。 商売の人を困らせてはいけないだろう?」と馴れ馴れしく透子の肩を抱いてきた。
「こ、この…」
「素直に負けを認めたまえ。 フフ…お陰でいい汗をかいた。 貸しいちとしておこう」
ファサ、と陽に透ける髪を掻きあげる静が心底憎たらしい。
勝ち誇った表情の静と悔しさにプルプル震える透子がその場をあとにした。