第16章 大人の遊戯*
「なあ? ここってジェットボート乗れたっけ?」
「湖……だよね?」
そんな周りの声をものともせず、穏やかな湖の中心を割り二線の水飛沫をあげて猛烈に進む二艘のボートがあった。
ルールとしては簡単である。
湖の直径を進み往復してからまた元の場所に戻るまでの競争だ。
「大体、がだ。 腕力が秀でている俺の方が有利なのは分かり切ったことだろう!?」
ザブザブ音を立ててオールを漕ぎながら隣を走っている静に透子がツンと大声を返す。
「体重は私の方が軽いですから!!」
「くくっ、力学を勉強し直したまえ! 体重を圧倒する力があるならむしろ不利だ」
先に片道の終点に差し掛かった静が余裕の表情をみせた。
透子としては何が気に食わないかというと、相も変わらず他人を小馬鹿にしたような彼のこの態度である。
これだけはちっとも慣れない。
「小回りが効かないのが難点ですね!!」
片腕の力を抜き透子がえいっと声を張ると、スムーズに旋回したボートが再び復路へと向かう。
そこでやや出遅れた静が「そもそもボートとは恋人同士が語らうものではないのか!」などと負け惜しみを言ってくる。