第16章 大人の遊戯*
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それから外出の準備を終え車に乗った二人だった。
透子が「どこへ行くんですか」と静に訊いてみた。
清浄な空気の中山道が続くドライブは普段とは景色と違い、もの珍しい。
「有名な神社で初詣もいいかなと。 ここにはうちが持ってる牧場もあるし、だがこの辺りは湖の宝庫だ。 通り道に寄って行こう………しかし、なかなかにいい眺めだ」
「本当に!」眼下に広がってきた山あいの渓谷に透子が目をやるも、気付くと静の視線は違うところに向いている。
「じ、ジロジロ見ないで下さい」
透子が顔を赤くして落ち着かなさげにスカートの裾を引き下げた。
桜木が選んだというが、こんな服を持っていたかと首を捻る。
白の襟ぐりのふんわりしたセーターに薄いグレーのスカートはたしかに可愛い。
だが如何せん、丈が短すぎる。 立ってもせいぜい太腿の真ん中辺りだ。 ご丁寧にタイツやブーツまで用意してくれてあり防寒としては文句はないものの。 何だかスースーして落ち着かない。
『こんないかが…かわいらしいキミを衆目に晒すわけにはいかない。 今日は日がな家でゆっくりするのもいいかな?』などと怪しげな目線を寄越してくる静を追い立て無事に外出にこぎ着けたのだ。
「まったくもう。 少しは普通に観光を楽しむ気は無いんですか」
「まあ、そうだな………大人の遊戯というのも悪くない」
段々と強くなってきた陽射しにサングラスをかけ口の端をあげた静だったが、透子は何やら嫌な予感がした。