第3章 自立(と調教)への一歩は王子から*
廊下に出た透子は屋敷内のもと来た道に足を進めた。
「透子様。 どちらへ」
螺旋階段に差し掛かるところで、落ち着いた声で話しかけられ飛び上がった。
「し、執事さん」
「青木と申します。 お帰りで? 静様からはなにも申しつかっておりませんが」
「ええと。 つ、疲れているので少し休みたいと」
「………」
踊り場で青木がじっと彼女を見あげた。
糸のような彼の目は穏やかそうに見えるが、感情が読みづらい。
「それであの………出来ればタクシーを呼んでいただければ」
ここがどこかもよく分からないので、と付け加えた。
「その心配には及びません。 ………しかしまあ、そうですね。 明日は大事な会議もありますし。 まだ23歳の静様には休養も必要でしょう」
「静さんってそんなに若いんですか」
パッと見は置いといてもあの落ち着きよう。
自分とたったの三つ違いとは。
「あれ? で………でも大学を卒業して、と」
「静様は大学までは英国に居ましたから。 飛び級でご卒業され、二十一歳の時に帰国いたしました」
ん"──────世界が違う。
「そ、それって多分アレですよね。 ケンブリッジとかオックスフォードとか」
「おや、よくお分かりで」
「………お約束なんですね」
「約束、ですか? とにかくすぐに支度をさせますから少々お待ちを」