第3章 自立(と調教)への一歩は王子から*
「…………ん」
いつもよりも広く心地好く沈むベッドに違和感を感じて目を開けた。
「…………っ?」
自分の目の前に何かがいる。
そして裸だ。
状況を整理するまでしばらくかかった。
それに動揺する前に、透子は隣でスースーと穏やかな寝息を立てている静に恐る恐る目をやった。
浅いカーブを描く瞼に長いまつ毛。
と、男性性を感じる直線的な額や、日本人にしては高い鼻梁。
反面、きめ細かで白い肌や薄桃の唇の色彩は優美さをたたえ。
個々の好みはあるとしても、文句無しのイケメンとはこのことだろう。
こんな人と初体験を、と。
不思議と後悔はまったく無く、ひそかに胸を高鳴らせじっくりと眼福にあずかる。
しかしこれは何かを彷彿とさせる。
うーんと考えようとするも、ふと窓の外を見、そろそろと暗がりを迎えようと陽が落ちかけているのに気付いた。
こんなことしてる場合じゃない。
遅くなるとみんなが心配する。
体を起こし、考え込む。
いや、そもそもお義母さんたちが心配なんかするのかな?
「……とにかく帰らなくちゃ」
下手をしたら既成事実だなんだと周りが大盛りあがりしそう、そう想像してぞっとした。
静を起こさないようにベッドを抜け出し、隣室で素早く衣服を身に付ける。
ほんの少しだけ内部や衣擦れの肌に違和感を感じた。
『明朝一緒に庭を見に行こう』
きらびやかな笑顔の静にそう言われたことを思い出し、ブンブンと頭を横に振った。
「ここで外堀を固められる訳にはいかないもの」
これは地位のある静のためでもある。
いくら未経験でも、彼がとても優しく自分を抱いてくれたことは分かる。
彼と今後どうこうなんて、おこがましいことを考える気は無い。
『キミをもっと知りたい』
(静さんは言ったけど、どうせ知るだけ幻滅されるに決まってるもの)
生きてきて二十年と少し。 好きな異性と付き合ったことさえない自分。 そんな人間がここに居ていいかどうか位は、わきまえている。
ほんの小さく息を吐いた透子は、今一度、天井が高く一流ホテルのような室内を見渡してから、戸口でぺこんと頭を下げた。
「………ありがとうございました」