第15章 届かない天空をのぞむ*
「し、静さん。 こりえは」
酔ってきたのだろうか、上手く呂律が回らなくなった透子がサイドテーブルにグラスを置いた。
「くく。 いいんじゃないか。 一生触れんでもいいと約束しかけた男だろう。 むしろ奴が尻尾でも振りそうな条件だ────要は天秤が水平ならいい。 話がまとまれば俺が仲人になろうか?」
肘掛けに腕を置き、ゆったりと話す静はどこか愉しそうだ。
「それは有難いです。 是非とも」
「にゃこうど………」
静がそうなるとすると。
離縁などになると西条は静の顔に泥を塗ることになる────ので、静との関係や西条の仕事に障りが出るということ? そんなものは何かが違うのではないだろうか。
いやこの二人なら違っていても構わないのか。
と、さっきから、思考がどうもぼやける。
ううむ、と透子がうなっていると静がふい、と自分の方を見てきた。
「透子何か不満か? 仕方がないな。 こちらへおいで」
「ひあい………」
フラフラ立ち上がった透子が静の膝へとぽすんと腰を落とす。
「え、透子様?」
ぴた、と頬に手をあてられ撫でられるので気持ちよくなり静の手を引き寄せる。
静にスリスリ体を寄せて懐いている透子は三田村の目からは猫かなにかの生き物のようにみえた。
「透子様? 突然、何を」
「フフ…かわいいだろう」
ドヤ顔をしたのちに静がそんな透子を抱きしめ、いつかの透子人形を愛でていたように愛おしげに髪に顔を埋めた。
「は、はい。 いえでも、普段はこんな透子様は」
「ワイングラスにほんの半錠落としただけだ。 酒との相乗効果だとこうなるらしい………なるほどな?」