第15章 届かない天空をのぞむ*
蕩けたチーズにほんのりニンニクの香り。
頬に手を包んだ透子が舌鼓をうつ。
そんな透子に目を細め、静が三田村にも勧めてきた。
「三田村も食べるといい。 野菜やベーコンなどもいけるぞ」
「逆に静様に供されるのは不思議な感じがします」
遠慮している様子の三田村のグラスにワインを注ぎ足し「気にするな、無礼講だ。 さて飲みながらでも先ほどの続きを」と静が気安く声をかける。
「男女関係においては相手を掌握することなど出来まい。 だから契約や制約があり、子供を愛の結晶などと誇張の表現として使う」
やはり盗み聞きを。 じっと静を睨む透子だったが、三田村はさして気にしていないようで手元のグラスを口に運ぶ。
「………それでは、恋愛など何の意味があるのでしょうか」
「意味? 知ってのとおり今のお前の状態だ。 ただの脳内物質の反応だな。 継続出来るかどうかは俺が言うのもなんだが、互いの能力や気質によると思う。 届かぬのが分かっているのならいっそ諦めるのもいいだろう」
「静さっ……? 何を」
ここは三田村を励まし相思相愛の二人をくっ付ける場ではないのか。 勝手に静もそうだと解釈していた透子が口を挟みかけた。
「西条のような家に嫁ぐのならそれぐらい慎重でいい。 俺も自らは透子には勧められなかった。 酔いや夢はいつか醒めるやもしれん。 だがその後に残るものをじっくりと見極めたまえ」
どこか腑に落ちない三田村の表情だった。
「静様は透子様と………後に残るものを考えたのですか」